版画制作という選択肢
ジクレー制作という仕事をしていると、作家さんや画廊さん、販売に関わる方とお話しする機会がよくあります。
「原画は特別」という前提はありつつも、今回は少しだけ、原画販売のその先にある作品そのものの可能性について書いてみたいと思います。
展覧会で原画が売れることは、作家にとっても画廊にとっても大変嬉しいことです。
一方で、展示や販売の現場ではこんなお話を耳にすることがあります。
「展覧会を訪れた時には欲しい作品がすでに売れてしまっていた、早い者勝ちだからしょうがない」
「この絵すごく好きなんだけど、原画はやっぱり高くて・・・」
「売れてしまっているのは知ってるけど、機会があれば、もう一度あの作品を見てみたい!」
また画廊さんからはこんな声もあります。
「作家さんの制作ペース的に、展示用の作品数を揃えるのが大変で…」
これも現場ならではのリアルな悩みだと思います。
原画作品は一点ものです。そこが最大の魅力でもあります。
ただその一方で、一度手を離れると「もう会えない作品」になってしまうこともあります。
ちょっと寂しいですが、それが現実でもあります。
そこで選択肢の一つとなるのが版画制作です。
原画の魅力を別のかたちで残す
版画というと「複製でしょ?」と思われることもありますが、実際はもう少し繊細な仕事です。
原画の色、質感、空気感をどうやってどのように再現するかを考えながら作業を進めていきます。
紙を変えれば雰囲気が変わりますし、サイズが変わるだけでも印象は違って見えます。
色調整の方向性によっても作品の空気がガラッと変わることもあります。
作家さんや画商さんの監修のもと、より魅力的なものになるよう仕上げていきます。
私たちがやっている色校正は、ただデータをつくる作業ではなく、
どちらかというと「作品として新たに立ち上げる作業」に近い感覚なのかもしれません。
版画は原画のコピーではなく、
別の形で作品を魅力的に見せるための方法の一つだと考えています。
作家にとっての可能性
版画を作ることで、原画とは違う価格帯で作品を届けることができます。
「原画は欲しいけど、ちょっと手が届かない…」
そんな方にとっては、作品との距離が少し近くなるきっかけになります。
それに、原画がすでに旅立った後でも、作品として発表し続けられるという点も大きなメリットです。より多くの方に作品を届けられるチャンスでもあります。
また、版画を原画とはまた別の作品ととらえて、あえて違ったトーンで発表する作家さんもいます。一度制作した作品に加筆などのアレンジを加えてまた別の表現をする機会にもなります。
作品が終わらない、進化するという感覚に近いかもしれません。
画廊にとっての可能性
画廊さんにとっても、版画はひとつの武器になります。
展示会の作品数を確保することが可能になるだけではなく、
人気作品を別の形で展開できたり、展示の構成に幅が出たり、
継続的な作品紹介につながります。
また、原画とは違う価格帯の作品を提案できることで、
これまで届かなかった層のお客様と出会えることもあります。
作品に触れる機会がより増える、と言った方が近いかもしれません。
作品を次につなげるために
版画制作は、作って終わりではありません。
むしろ面白いのはここからで、
最初の展示ではあまり動かなかった作品が、後になってじわじわ人気が出てくることもあります。
展示する会場で売れ行きに違いが出ることもあれば、
複数の作品を展示し続けることで人気モチーフの傾向がわかってくることもあります。
版画にすることで、色々な気づきもあるようです。
だからこそ私たちは、一度の展示だけでなく、その先の展開も見据えてデータを保管し、
必要なときにきちんと再現できる体制を大事にしています。
作品は一度作って終わりではなく、時間をかけて広がっていくもの。
版画制作には、そんな可能性があります。
私たちは、そうした作品の歩みを少しでもお手伝いできれば、と考えています。
